U.M.I Film Makers 航海日誌

映画製作ユニット「U.M.I Film Makers」の活動の日々を記した航海日誌です。

船長の航海日誌64~視点のサスペンス

こんにちは!船長の武信です。

無事に野村有志監督作品『サンセット』のアーカイブ配信も終了しました。
ご覧くださった皆さま、気にかけてくださった皆さまありがとうございました!


初回配信も終了ということでちょっとネタバレ含んだ撮影裏話などw


当たり前のことですが映画ってカメラでズバッと実際の風景を撮影して作るので、カメラのフレームに入るものは基本何でも写ってしまいます。
これの良い所は「写せば簡単に一瞬で視覚的な説明ができる」という点。
小説だと例えば筑摩川の風景を描写するのに様々な単語や修辞を駆使して結構長い文章を構築する必要があるわけですが、映画だと秒でそのまま丸っと観客に提示することが出来ますw

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これは竜崎だいち監督作品『逡巡レインボー』のワンカットですが、こんな感じでワンカットの中に情報大量に詰め込める。
このカットの具象を文章化するのとか多分めっちゃシンドいと思いますw


逆に良くない所は「実は見せたくない物まで写ってしまう」という点。
明らかに写ったらいけない物はフレームの中に来ないようにすれば良いのでそこまで難しくはないのですが、「特に見せたい訳でもないけど写ってないとオカシイ物」っていうものが世の中には大量にあり、これらの扱いって実は結構面倒くさいのですw


演劇作品だと素舞台に黒幕が張ってあれば、そこはある種の抽象的空間として了承してもらえて、想像力で背景などは補完してもらえたり、何だったら物語に必要のないものとして意識から切り捨てる…という見方が成立するし、舞台版のサンセットはこれを上手く利用した演出になってるのですが、映画の場合それをそのまま踏襲して何も写ってない暗黒空間を背景にしちゃうと「何で?此処は何?…宇宙???」ってなっちゃうだけなんですよね。
なので絶対に舞台となる「部屋」の具体的なセットを組む必要がありました。

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…でセットを組んじゃうとそれは確実に画面には映るわけで、そうなると前述の舞台空間とは違う意味で「この画面に写ってる部屋は一体どういう部屋なのか?」という部分が観る人の意識には上って来るのですよね。
これはもう映画という手法上どうしようもない部分なので敢えて隠すことはせずに(隠せないしw)、観る人のフックになるように乗っかって活かして行こう!とw


カメラを置く位置を「登場人物たちが気にしている壁」の側からだけに限定して、最初のうちは「この部屋は何のための部屋なんだろう?」という興味、お話が進んでいくにつれて「写ってない側の壁はどうなってるんだろう?」という興味が持ってもらえたら良いな…という大きな方針を撮影前に早い段階で監督と相談して決めていました。
あまりアングルを限定ぜずにもっと早い段階でスイッチなどを写してしまい空間の現実感を強調する…という方法も候補には上がっていましたが最終的にはかなり視点を限定して観る人の想像を膨らませてもらう方法を選んだことになります。
ここに外の廊下を歩く月村の足のアップを挟むことで「ここは何処?彼らは誰?」という興味を早い段階で持ってもらい物語的なサスペンスに繋げたい…という狙いw

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観てくださった方の感想でも舞台版に映画版は比べて「怖い感じ」「不穏な感じ」が強くなってる印象のようなのですが、これは主にこういう仕掛けのせいではないかと思います。

これがクライマックスの阿波おどりのシーンではそれまで守ってきた視点の固定を敢えて無視して色々な方向からの絵になり…

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ラストシーンでは完全に前後逆転して今まで登場人物にしか見えてなかった「もうひとつの壁」がようやくハッキリと映り、この壁が常に写ったまま映画は終わります。

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こういった「物語にリンクした視点の演出」みたいなのはとても好きなので撮影監督として毎回何らかの形で挑戦しているのですが、この『サンセット』ではかなり上手く出来たのではないかと自負しています。
次回作でもこういう仕掛けは作っていきたいなぁw