U.M.I Film Makers 航海日誌

映画製作ユニット「U.M.I Film Makers」の活動の日々を記した航海日誌です。

船長の航海日誌142~『さなぎの猫』SFよもやま話③~謎の機械

明けましておめでとうございます。船長の武信です。
昨年は『さようなら』『さなぎの猫』上映などで大変お世話になりました。
今年も宜しくお願い致します!


前回は「宇宙人」のSF設定について書きましたが、今回は続いて決めるべき「謎の機械」について書いていこうと思います。
今回も盛大にネタバレしながらのお話になるので未見の方はご注意ください。
「観る気無いから読むわ」という方がもしおられて読んで興味湧いたら観てください!w
なおとても長いので「読むわ」と思った方は最後まで我慢してお読み下さい!!!(←迫真

謎の機械

『さなぎの猫』のSF軸は「猫島であり限界集落でもある瀬戸内海の佐柳島に未知の科学技術で作られた謎の道具を持った宇宙人が現れたらどうなるか」なのでSF的には「謎の機械」はほぼ主役に等しい重要なガジェットです。
物語上「宇宙人」は基本的には人間に擬態しているので、この「謎の機械」が直接映像に映る存在としては一番SF感に直結するアイテムになります。
なのでSF設定は重々厳重に設定せねばなりません。
よって当然これに関しては撮影前から十分に細部を検討してSF設定を決めておく…事が出来れば良かったんですが、実は時間的な都合で詳細な設定はほぼ何も決めれないまま撮影に突入しましたw
正確には急拵えで慌てて作った設定はあったんですが完成した際には全ボツになりましたw
何だよ!結局また後付かよ!と思われると思いますがその通りです(# ゚Д゚)(←逆ギレ


とはいえ脚本上で「謎の機械」は「白いカプセルみたいな形のカバン」と明言されているのでこの形を基本に撮影前に造形の久太郎さんに野村監督のイメージや僕の急拵えの荒い設定を伝えてデザインをお願いしました。
ドラえもん』でいうところの毎回のひみつ道具に相当する存在なのでデザインも魅力的になって欲しいと思い「『ゴジラ』のオキシジェンデストロイヤーとか『太陽を盗んだ男』の原子爆弾みたいなイメージで…」とか久太郎さんには好き勝手に言ったものですが上手く反映して下さったと思います。
そして同じく脚本上で「一億円が中に入っている」ので機械の大きさもこれを基準に久太郎さんに決めて貰って実際の造形に取り掛かって頂きました。


そしてやってきたロケ出発当日。
ロケ隊の集合現場に到着した完成品の「謎の機械」を初めて見て思ったのは正直に言うと…
デカい!思ったよりデカい!!!

一億円の体積を甘く見ていましたw
横19センチ・縦32センチ・高さ20センチ(重さ10キロ)なんですよ、一億円ってw
これが収まるスペースが中に有ってかつデザイン要求を満たすとこの大きさになるのは当然だし、そもそもそういう条件で発注してるのはこちらなので完全にこちらの想像力不足なんですが、実際に物を見るとまぁまぁビビりましたw
一億円なんて見たこと無いから仕方が無いwww


…が、もう今はそれを言っても始まらないのでこの大きさを活かす方向でディテールを決めよう!と監督と決めて佐柳島へ出発です!


実際に撮影に入ってみるとこの「謎の機械」、大きさが丁度「人が持て余すくらいの大きさ」だったのが功を奏して中々上手く運べなかったり隠すにも簡単には隠しきれなかったりとその大きさを生かしたコミカルなシーンが幾つも撮れました。
『さなぎの猫」はドラマが中心の映画なのでこれはとても良かったのではないかと思います。

そしてこの機械、思ったより大きかったのを逆手に取って、開閉するシーンでは「この大きさのものが出しそうにないスピード」で開閉する(開閉機構は動力が仕込まれている訳ではないので勿論手動ですw)というのを現場で試してみた所、テストを見た関係者一同大爆笑になったのでこれも採用となりました。
要は完全に面白さ優先で撮影していった訳ですw


良いのか?
…良いんですw


『さなぎの猫』はSF設定から組み立てていく映画ではなくて先ずはドラマや物語展開の面白さがあるべき映画です。
野村監督の脚本・監督作品なんだからそこは譲れない。
とはいえ前々回から申し上げている通りこのまま特にSF設定を作らずに「何となく面白いからこれで良いだろう」と安易にここで終わらせてしまうと「適当に作ったSF映画だな」と観客の皆さんに思われてしまうのでポスプロでキチンとSF設定に基づいた描写を加えていきます。


本編をご覧になった方はご存知の通りこの「謎の機械」は実は「レプリケーター」と劇中で称される「生物以外の物体を出現させる能力」のある装置です。
ここをフワッとしたままにしておくのはSFとして致命的なのでここは絶対に設定せねばなりません。
流石にそれは初期から判っていたので、前述のように久太郎さんにデザイン依頼を出す段階で急拵えの設定を作りはしたのですが、恥を忍んで公開するとそれは↓こんなのでしたw

レプリケーター」初期設定案


……
………ありきたり
全然ありきたりで面白くない上にやっつけ過ぎwww

「適当に作った」のがバレるというのはこういう事さ!。・゚・(ノД`)・゚・。


という訳でちゃんと面白い映像効果に繋がりそうな設定をイチから考えないといけない訳ですが、ここは既に決まっている「宇宙人」の設定を踏まえてこの「謎の機械」もとい「レプリケーター」のSF設定も設定し直していきます。
この部分で筋が通せるかどうかでSFとしてのクオリティーが決まると言っても過言ではないのでここは柄にもなく頑張ります!w

レプリケーター

「宇宙人」は「地球の狸や狐のように他者に幻を見せる能力を持つ種族」と設定したので「レプリケーター」もこの延長線上にある機械のはずです。
猫星人が道具を作るなら自分たちのこの有益な能力を無視した機械を作る訳がない。
地球人の「物体を介して物質エネルギーをやりとりする機械」というよりは「精神感応能力を利用した装置」の進化形ではないか?
つまりこの「レプリケーター」は「物体の形状を読み取って物体を再現する機械」なのではなく「周囲の生命体の精神・思念を読み取ってそれを物質化する装置」なのではないか?


うむ、面白そうwww
これで行きましょう!


物質的・物体的な原理で動いておらず精神的な作用で動いているのならこの装置は作動する際もあまり機械的な音を立てるようなことは無いはず。
…なのでまずは「レプリケーター」の作動音を生物が動いている音をメインにすることが決定。
具体的には花子役の鳩川さんに猫星人の猫語っぽい台詞(感情を乗せた猫の鳴き声w)を何種類か演じて貰って、音響の浅葉さんに猫が餌を食べている時の咀嚼音とかスピリチュアルな低音とか何か良くわかんないグチュグチュした音とかを合成して貰い開閉音や作動音を作りました。
地球人には想像しにくい原理で作動しているため生理的に気持ち悪い音や非現実感のある音で構成してもらっています。
(が、ヘッドフォンや映画館の大音響でよく聞くと開く瞬間に猫が嫌そうに「うにゃ!」とか言ってたりするのが聞こえてちょっと可愛いくもありますw)


なお作動時の見た目については脚本で「音のたびに光が放たれる」と最初から決まっていたので、一応撮影時にブラックライトを当てたりハンドライトで赤い光を動かしたりして撮影しており、最終的には地球人にとっては禁忌に触れているような、より禍々しい方向性でデジタル処理して仕上げました。

該当場面

「作動時の動作」のビジュアルが決まったので次は「普段の見た目」について考えます。
スペクタクルな見せ場を重視する映像的に派手な映画(スターウォーズみたいなw)であれば普段の見た目については余り細かく考えずに作動時など派手に動く時の効果をもっと派手にして押し切るという選択肢もあるんですが、『さなぎの猫』はそういう作品ではないので普段からじわっとSF感を継続しておく方向が良いはず。そこで…


「精神感応能力を利用した装置」であるならもしかしてこれ自体が「精神感応能力に依存した存在」なのではないか?
つまり存在しているように見えているが実はそんなにハッキリと物質・物体ではなく半分くらいは思念体の性質を持って存在しているのではないか?


…と考えて明るいところでも暗いところでも常に同じくらいの光量の光を反射しているという設定を追加しました。
明るいところでも暗いところでも常にぼんやり光っている様に見えて明るさに関する第一印象が余り変わらない…という現実的にはあり得ない光り方でこの世のものなのかそうでないのか?みたいな怪しさが醸し出せたら面白いはず。
テストで暗い所にある時の「レプリケーター」の輝度を編集で限界まで上げてみた所、撮影時にブラックライトを当てていたのが功を奏して青い光を放つようになって面白かったので、これを基本のビジュアルとして採用しました。
(一応本当の反射光をデジタル処理したものなのでレプリケーター自体が発光しているようには見えてない筈w)

合成前
合成後

花子の幻影体はドラマと連動させた方が面白いのでここぞという箇所にだけ入れましたが、こちらは全カットに入れてSF感を主張していきます。
そもそもSF感が必須なお話ではなかったのを後からSFに振ったので地味ながらもSFであることを常に主張しようという魂胆ですw
やり過ぎくらいが丁度良い!!!www


これで直接画面に映る要素については「宇宙人」と合わせればほぼ満足できる数が揃うのではないか(というか後半はほぼずっと映ってるw)という分量になったので「レプリケーター」の設定も一旦ここまでにします。
あとは画面には恐らく絶対何の影響も与えないけど一応ここまでに揃った設定を組み合わせる際に必要な「猫島であり限界集落でもある瀬戸内海の佐柳島に未知の科学技術で作られた謎の道具を持った宇宙人が現れたらどうなるか」の「未知の科学技術」の部分を念のために設定すれば一先ず『さなぎの猫』のSF設定は完了。
次回はそのお話について書きたいと思います。
今回は随分長くなってしまいましたが、宜しければ引き続き読んで頂けましたら幸いです<(_ _)>


レプリケーター(思念体物質化装置)】
花子の種族が使う自分たちの精神感応能力を発展させ、幻影体を見せるだけではなく物質化して物体として現出させることが可能な装置。
基本的には所有者の要求に従って必要な情報を所有者自身や周囲の生命体の思念から読み取ってこれをマスターにした物体を現出させる。
そのため所有者が詳しく知らない物体でも周囲に十分な情報源があれば現出させることが可能。
この装置自体が思念体物質化の技術を使って思念体を凝縮して生成されているため物質としての性質と思念としての性質を併せ持って存在している。
なお自らの意思や思考を持つ様な生物(思念の発生源)を現出させることは出来ない。





文化庁 令和3年度補正予算事業
コロナ禍からの文化芸術活動の再興支援事業 AFF2 支援作品

野村有志監督作品『さなぎの猫』



www.youtube.com


www.umifilm.com



①インド・サーヴィン国際映画祭(2023年8月度)最優秀国際長編賞・最優秀監督賞
②日本・第一回赤羽自主映画祭(2023年8月26日)入選
​③インド・シッタナヴァサル国際映画祭(2023年8月度)審査員特別賞
​④インドシンガポール国際映画祭(2023年8月度)最優秀国際長編賞・最優秀監督賞・最優秀作曲賞・最優秀音響賞
⑤日本・第15回日本映像グランプリ(2023年)一次予選入選
ベラルーシミンスク国際映画祭(2023年)公式セレクション
ABCホール関西小劇場映画祭vol1(2023年)公式セレクション←NEW



【あらすじ】
猫島として有名な佐柳島に靖という一見ぶっきらぼうな男が暮らしていた。
ある時、靖はびしょ濡れで島を徘徊する花子と名乗る女と出会い、海に落として無くしてしまった「鞄」を探して欲しいと頼まれる。
その時丁度帰省中だった靖の幼馴染である千佳とその夫の清も巻き込んで、美しくのどかな佐柳島を舞台に繰り広げられる小さな騒動。
様々な場所を住む場所に選んだ者たちの人間(?)模様。


未来・過去、そして今を描く、切なくて美しい佐柳島SFヒューマンコメディ!
海外の映画祭でも高評価の日本ならではの静かなSFドラマ。



【監督・脚本】
野村有志


【出演】
浅雛拓
鳩川七海
一瀬尚代
野村有志



【スタッフ】
撮影監督・編集・製作統括 武信貴行(U.M.I Film makers)
助監督 橿原大和(120) 林知明
撮影 タニガワヒロキ
照明 竹田和哲(NOLCA SOLCA Film)
音響 浅葉修(Chicks)
音楽 浜間空洞(小骨座)
美粧 KOMAKI(kasane)
造形 久太郎(Anahaim Factory)
撮影記録 緒花(Noisy Bloom)
制作進行 篠原ひなた 三坂恵美(Booster)
宣伝美術 勝山修平(彗星マジック)
現地協力 坂川桃香
製作 U.M.I Film makers
共同製作 オパンポン創造社
配給 Booster

コロナ禍からの文化芸術活動の再興支援事業 ARTS for the future!2採択事業
(2022年/日本映画/88分/カラー/ステレオ/​映倫番号124178 G区分)